シェフメッセージ

■父の背中に導かれて

子どもの頃から家で食べるハンバーグは、料理人だった父の手づくりでした。いつも身近に父の料理があったせいで、物心がついた頃から、自分も料理で身を立てるものと思ってきました。お腹がすけば、自分でチャーハンをつくって食べる小学生だったんです。 本気で料理の道へ進むきっかけになったのは、たまたま出会った“タラコパスタ”でした。当時は「焼いて食べるお弁当のおかず」というイメージしかなかったタラコが、想像もしていなかった食材として使われていたことに衝撃を受けました。器がスタイリッシュで店のレイアウトもおしゃれ、雰囲気がまるごと「おいしかった」そのイタリアンレストランに入社。150席もの店の厨房で料理にどっぷり浸った10年後、料理長として「つくる」だけでなく「組み立てる」ことにも取り組み、独立するまでの25年間、料理人としての修業を続けました。

■食材はパートナー

ノッツェでは、できる限り国産の食材を使っています。静岡県で育った地場産野菜をはじめ、地元で母が育てている根菜や静岡県産のオリーブオイル、肉や魚も国内産です。そんな野菜、肉、魚を、炭で焼くのがノッツェ流。炭火はどんな食材にもやさしいんです。美しさを保ったままじっくりと中まで火が通り、素材のおいしさを際立 たせてくれます。 もうひとつのこだわりが塩。素材から引き出された本来の持ち味を楽しむ和食は、塩の使い方でおいしさがきまると言われますが、イタリアンも同じです。ノッツェでは、下ごしらえや野菜のボイル、仕上げの盛り付けなど、それぞれの用途に応じて7~8種類の塩を使い分けています。さらに、イタリアンに欠かせないのがワイン。「和食に近い」という声をいただくノッツェの料理には、やさしく繊細な口当たりの国産ワインが似合います。料理とワインがお互いを引き立て合うおいしさを、ぜひ堪能していただきたいと思います。 こうした素材本来のおいしさを引き出し活かすため、どんな時でも心がけているのは、食材も炭もワインも丁寧 に扱うこと。野菜も、肉や魚も、ワインも、そして炭にも、すべて生産者がいて販売する人がいます。料理として最後に提供する私には、そんなみんなの想いを届ける役目があるのです。だから、食材をなるべく捨てないこともポリシーに、すべてに「やさしさ」を大切にした料理を心がけています。

■料理とは「物語」だ

おいしい料理には、起承転結があります。 独立前の職場で、ある料理の開発に取り組みました。すでにあるレシピや料理本には一切手をつけず、全くの白紙の状態から始めることにしました。どんな食材を使うのか、どんな使い方が似合うのか、何と組み合わせればおいしさが引き出せるのか。試行錯誤を重ねた結果、ヒット商品を生み出すことができました。オリジナルメニュー開発への自信が生まれると同時に、様々な食材がお互いのおいしさを引き立て合うよう、心を配りながら料理を組み立てる楽しさを知ったのです。その一品は今、ノッツェの人気メニューのひとつである「ローストビーフ丼」のソースとして、みなさまに喜ばれています。そうした開発過程はもとより、お客様との向き合い方、提供するスタイルや器など、味だけにとどまらないすべての背景が、起承転結を味わう物語の素材として、料理のおいしさになるのだと思っています。

■おいしさの向こうにあるもの

今、私はとても贅沢をさせていただいています。自分でお客様をお迎えし、お客様と言葉を交わしながら目の前で料理ができる。自らの手でおもてなしをし、「おいしかった」というお客様の言葉を聴きながら、お見送りができる。料理に携わる者としての醍醐味を、すべて味わっているのです。これほど幸せなことはありません。今のいちばんの願いは、すべてのお客様と友だちになること。心の距離が縮まるほどにおいしさが増していく、それが料理ですから。「諸行無常」という言葉があるように、時の流れと共に移り変わるお客様の想いや好み。それらに寄り添い続けることが、喜ばれる料理につながるのだと思っています。料理のおいしさは、味だけではないはずです。「おいしい」というたった一言ですが、その一言がお客様の口をついて出る背景には、器やレイアウト、雰囲気など幾重にも重なる理由があるはずです。そんな「おいしさの向こうにあるもの」を見つけるために、これからも料理とまっすぐ向き合い続けます。イタリアンの先にある、ノッツェの味、ノッツェの料理をめざして。

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